政令指定都市20市の受験案内を一件ずつ開くと、19市に適性検査型(SPI3・SCOA)の枠がありました。ただし多くは従来型との併設で、採用予定数で見れば従来型が約7割という市もあります。
SPIとWEBテストのことを最初に書いたのは2016年でした。近年こういう試験を課す役所も出てきた、という程度の書き方で、出典も付けずに自分の印象だけで対策の要不要を論じていました。
「9割の自治体がSPIを導入している」という数字をあちこちで見かけますが、実際に私が調べたデータとは異なっています。
範囲を政令指定都市20市に絞り、各市の受験案内と公式発表を一件ずつ開いて数え直しました。結果と、その数字の読み方を書きます。書くのは、特別区と国家系に受かった元公務員です。
この記事でわかること
- 政令指定都市20市を一件ずつ確認した結果と、確認できなかった1市
- 枠の数ではなく採用予定数で見ると景色が変わること(相模原市は従来型が約7割)
- 大阪市のように「SPI型か従来型か」の二分法に収まらない形が出てきていること
- 適性試験にも足切りがあり、基準未達なら筆記が採点されない試験があること
- 東京都の新方式と特別区の早期SPI枠は、従来型と併願できないこと
数える範囲を決めた
全国約1,700自治体を一件ずつ確認するのは無理です。かといって出どころの分からない比率を引用すると、そこから先の話が全部あやしくなります。
そこで母集団を、政令指定都市20市の大卒程度・事務(行政)系区分、2026年度(令和8年度)実施分に限定しました。この範囲なら各市の公式発表と受験案内をすべて開けます。
- 対象区分 政令指定都市20市の大卒程度・事務(行政)系区分
- 実施年度 2026年度(令和8年度)実施分
先に限界を書いておきます。これは20市の全件調査であって、全国の標本ではありません。政令市は制度の変更が早い層なので、この結果を全国に当てはめてはいけません。
全国での導入率は、この限りではないことにご注意ください。
20市の結果
20市中19市で、適性検査型(SPI3・SCOAなど)の枠を確認しました。確認できなかったのは広島市の1市だけです。
19/20市
適性検査型の枠あり
14市
従来型と併設
1市
確認できず
| 市 | 適性検査型の枠 | 内容 | 確認 |
|---|---|---|---|
| 札幌 | あり | 大学の部(SPI方式)。教養試験・専門試験なし | 公式ページ |
| 仙台 | あり | 早期枠は第1次がSPI3のみ。通常枠は筆記 | 公式ページ |
| さいたま | あり | 行政事務の第1次はSPI3。教養・専門を行わない | 公式ページ |
| 千葉 | あり | 上級行政Aは従来型(教養55題中45題+専門50題中40題)。先行実施枠でSPI3 | 公式ページ |
| 横浜 | あり | 大学卒程度【春実施枠】の第1次はSPI3 | 公式ページ |
| 川崎 | あり | 春試験がSPI方式。夏試験は択一60題180分の総合筆記試験 | 公式ページ |
| 相模原 | あり | 教養試験枠65人程度+SCOA枠15人程度+SPI3枠15人程度(後の2枠は2026年度新設) | 受験案内PDF |
| 新潟 | あり | 一般行政の第1次試験科目をSPI3に変更 | 公式ページ |
| 静岡 | あり | 夏日程は基礎能力試験をテストセンター方式で実施 | 公式ページ |
| 浜松 | あり | 行政BはSPI3、早期の行政CはSCOA。教養試験も人文・自然分野の出題なし | 公式ページ |
| 名古屋 | あり | 従来型(教養・専門)と適性検査型(SPI3)を併設 | 受験案内PDF |
| 京都 | あり | 3月試験は基礎能力検査(SPI3)+専門性確認シート。教養・専門なし | 公式ページ |
| 大阪 | あり | 事務行政(22-25)は適性試験(SPI3・能力検査のみ・約1時間10分)+筆記1科目選択 | 受験案内PDF |
| 堺 | あり | 適性検査(SPI3)をテストセンターまたはオンラインで実施 | 公式ページ |
| 神戸 | あり | 【基礎的能力・専門試験方式】と【適性検査方式(SPI3)】を併設 | 公式ページ |
| 岡山 | あり | 従来型に加え、多くの区分で能力試験(SPI3など)を導入 | 公式ページ |
| 広島 | 確認できず | 1種行政事務は教養試験+専門試験の総合成績で第1次合格を決定。受験案内にSPI・SCOAの記載なし | 受験案内PDF |
| 北九州 | あり | 上級で「教養択一」区分と「SPI3」区分を併設 | 受験案内PDF |
| 福岡 | あり | 上級(先行枠)の第1次は基礎能力検査(SPI3) | 受験案内PDF |
| 熊本 | あり | 筆記は基礎能力を測るSCOA。教養試験・専門試験ではない | 公式ページ |
表は横にスクロールできます
「確認」欄が受験案内PDFの6市は、原本を開いて本文を確認しています。公式ページとした14市は、各市の公式ドメインでの公表内容までを確認した段階です。受験を決めた市については、必ず自分でその年度の受験案内PDFを開いてください。
広島市についても、1種の受験案内に記載がなかったというだけで、社会人枠など別の枠での実施まで確認したわけではありません。
出典 政令指定都市20市の人事委員会および任用担当課が公表した2026年度(令和8年度)採用試験の受験案内・実施要項。うち6市は受験案内PDFの原本、14市は各市公式サイトの公表内容による。集計は本サイトによるもので、公的な統計ではありません。
ここまでが数字です。ここから先が本題で、この19という数字だけを見て「もう教養試験は要らない」と判断すると間違えます。理由は4つあります。
多くは併設である
第一に、置き換えではなく併設です。従来型の教養試験と専門試験を残したまま、適性検査型の枠を別に設けている市が多数を占めます。名古屋市、神戸市、北九州市の書き方がそのままそれで、受験者は申し込みのときにどちらかを選びます。
従来型そのものを廃止した市もあります。京都市、大阪市、熊本市、さいたま市など。ただし、いまのところ少数派です。
SPIの枠がある市と、SPIしかない市。ここは分けて数える必要があります。
この先どこまで広がるのかは、私にはわかりません。3年後に多数派になっていても驚きませんし、このまま止まっても驚きません。
相模原市 大卒程度・事務の採用予定数(2026年度)
- 教養試験枠 65人程度
- SCOA枠 15
- SPI3枠 15
出典 相模原市人事委員会 令和8年度 職員採用試験受験案内。枠の数では3分の2が適性検査型に見えるが、人数では従来型が約7割を占める。
枠の数と採用人数
第二に、枠が新設されたことと、その方式で入れる人数が増えたことは違います。相模原市が分かりやすい例です。2026年度にSCOA枠とSPI3枠を新設しましたが、採用予定数の内訳はこうなっています。
| 枠 | 採用予定数 | 備考 |
|---|---|---|
| 教養試験枠 | 65人程度 | 従来型 |
| SCOA枠 | 15人程度 | 2026年度新設 |
| SPI3枠 | 15人程度 | 2026年度新設 |
採用予定数で見れば、従来型が約7割です。枠の数を数えると3分の2が適性検査型に見えますが、入れる人数で数えると逆になります。
この差は、自分がどちらで受けるかを決めるときに効いてきます。
SPI枠ができた市を「SPIで受かりやすくなった市」として紹介している記事をよく見ます。人数を見ていないだけだと思います。
二分法に収まらない形
第三に、「SPI型か従来型か」という分け方自体が、現実に追いついていません。大阪市の事務行政(22-25)を見てください。
第1次は適性試験(SPI3の能力検査のみ、約1時間10分)。これに加えて申込時に選ぶ筆記試験(1時間30分)があり、教養試験でも専門試験でもない、第三の形です。
- 論文(行政)
- 論文(デジタル)
- 択一式(法律)
この3つから1つを選びます。SPIだけで受けられる市として数えると、大阪市は入りません。従来型の市として数えても入らない。こういう市が増えると、導入率という数字自体があまり意味を持たなくなります。
適性試験にも足切りがある
第四に、これがいちばん誤解されているところです。大阪市は受験案内に、第1次試験において適性試験の得点が一定の基準に満たない場合は不合格となり、筆記試験の採点は行わないと明記しています。
東京都のⅠ類B一般方式も、教養試験が基準に達しなければ論文と専門試験は採点されません。特別区の春試験も、五肢択一の成績が一定点に達しない場合は他の試験が採点されません。構造は同じです。
| 団体 | 足切りの対象 | 基準未達時の扱い |
|---|---|---|
| 大阪市(事務行政) | 適性試験の得点 | 不合格。筆記試験は採点されない |
| 東京都Ⅰ類B一般方式 | 教養試験の得点 | 論文と専門試験は採点されない |
| 特別区Ⅰ類春試験 | 五肢択一の成績 | 他の試験が採点されない |
知り合いに、市役所の教養試験で40点中34点を取ったのに落ちた人がいます。教養がどれだけ良くても、他の種目のどこかで基準を割れば、それだけで終わります。
私自身も適性検査型の試験を受けたことがあります。感触としては、玉手箱をやっておけば足りる、そんなに難しくはない、というものでした。ただしこれは一人の感触で、足切りの基準をどこに引くかは試験ごとに違います。
事務能力検査について、対策をしなくていいかというと自分はそう思わいませんでしたが、適性試験にも同じことが言えます。
適性検査だから対策は不要。この広報上の言い方を、勉強しなくていいと読むのは危険です。対策の中身が変わるだけで、通過しなければならない線はあります。
東京都と特別区の適性検査枠
政令市の話をしてきましたが、東京都と特別区にも適性検査型の入口があります。どちらも、従来型と同じ年度に併願できません。
東京都Ⅰ類Bの新方式
- 第1次は適性検査(SPI3)のみ。テストセンター方式で全国から受験日を選べる
- 第2次はプレゼンテーションを含む個別面接とグループワークを含む個別面接を1日で実施
- 教養試験と専門試験は課されない
- 一般方式に申し込んだ人は、同じ年度の新方式に申し込めない
どちらも、従来型とは併願できない
特別区Ⅰ類の早期SPI枠
- 事務で採用予定数191名程度
- 第1次はSPIで、受験日は3月4日から3月17日のうち自分で選ぶ
- 第2次はプレゼンテーションシートの作成(4月19日)と口述試験(5月12日から15日)、最終合格発表は5月29日。春試験より3か月近く早い
- 早期SPI枠に申し込むと、同年度の春試験には申し込めない
この「併願できない」が、適性検査型を考えるときのいちばん現実的な制約です。教養と専門を仕上げる労力を使わずに受けられる代わりに、同じ団体の従来型を1回分あきらめることになります。どちらが自分にとって得かは、持ち時間と、他にどこを受けるかで変わります。
この結果をどう使うか
見るべきは枠があるかどうかではありません。採用予定数、従来型と併願できるか、そして足切りの記述の3つです。
調べ終わって、自分ならこう組み立てるという順番を書いておきます。
志望する市の受験案内を開いて、適性検査型の枠があるか、あるなら採用予定数が何人かを見る。枠の有無ではなく人数を見る
できない場合は、そこで進路が1本に決まる
適性試験の基準未達で筆記が採点されない旨が書かれていれば、その検査は「対策不要」ではない
従来型の教養試験でも適性検査型でも、問われる能力の重なりがいちばん大きいのはここ
憲法・行政法・民法・経済学に入るのは、残すと決めてからで間に合います
適性検査型の枠が増えたことは、勉強量が減ったという話ではありません。受ける場所ごとに必要なものが違ってきた、という話です。だから最初に受験案内を読む時間が、以前よりはっきり効くようになりました。
制度全体の形は 公務員試験の全体像|2024年改正後の現在地 にまとめています。
調査対象は各市の2026年度(令和8年度)実施分です。枠の構成と採用予定数は年度ごとに変わります。出願前には必ず各市の最新の受験案内で確認してください。
出典は各市人事委員会の令和8年度受験案内および公式発表。大阪市、相模原市、広島市、北九州市、名古屋市、福岡市は原本PDFを確認しています。東京都と特別区は各人事委員会の令和8年度採用試験案内によります。
